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青少年の性行動調査
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青少年の性行動調査

わが国の青少年(中学生・高校生・大学生)の性についてのさまざまな意識や態度、経験を明らかにし、社会的背景などとの関連を検討。1974年からほぼ6年ごとに全国的な規模で続けられてきたこの調査は、その継続性、広範囲な地域での広い年齢層にわたったものであることから、評価も高い。

「青少年の性行動全国調査」の目的と特徴

「若者の性」白書 第8回青少年の性行動全国調査報告
発売中
(小学館 書籍案内へ)
(amazon.co.jpへ)

編/一般財団法人日本児童教育振興財団内 日本性教育協会
発行/小学館
定価/本体2,200円+税
     A5判256ページ

<内容>
●序章 第8回「青少年の性行動全国調査」の概要
●第1章 変化する性行動の発達プロセスと青少年層の分極化
●第2章 青少年の性規範・性意識からみる分極化現象
●第3章 家庭環境や親子のかかわりの違いは青少年の性行動に影響を与えるか
●第4章 知識・態度・行動の観点からみた性教育の現状と今後の課題
●第5章 青少年の性行動と所属集団の性行動規範
●第6章 青少年の避妊行動の実態と包括的性教育の可能性
●第7章 性的被害と親密性からの/への逃避
●第8章 青少年の性についての悩み〜自由記述欄への回答からみえるもの〜
●付表T 「青少年の性に関する調査」調査票
●付表U 基礎集計表(学校種別・男女別)
◆コラム
1…性情報について
2…性教育をめぐる近年の社会的動向
3…LGBT学生について
4…男性の性的被害
5…「青少年の性行動全国調査」の困難と課題

 本書は、第8回を迎える「青少年の性行動全国調査」の主要な結果を過去の調査結果と比較することで、40年余にわたる青少年の性行動・性意識の変化とその背景にある要因を解明したものである。この調査は、表1に示したように、1974年からほぼ6年おきに全国の中学・高校・大学生を対象におこなわれてきた(ただし、中学生を調査対象に加え、調査地点を町村にまで拡張したのは、1987年の第3回調査からである)。6年たつと中学・高校生の母集団が入れ替わるので、この間隔で調査をおこなうことで、日本の青少年の性行動を切れ目なく把握できる。
 この調査が始まった1970年代は、青少年の性の問題が今からみれば過剰なほどに「問題化」された時期であった。たとえば、『毎日新聞』が1970年の紙面で「青年=若ものたちの性」というテーマで「一夫一婦はナンセンスか」「フリーセックスは可能か」といった特集記事を連載する一方、「青少年:わが家の性教育」と題して識者に子どもに対する性教育の実例を語ってもらっている。さらに、青少年の性の問題は、国会でも取り上げられた。1971年の参議院本会議では、文部大臣が「性の乱れ」が現代青年の問題と答弁している。また、同年の参議院予算委員会では若者の「性の乱れ」を文部大臣に、性病予防対策費の減額について厚生大臣に、職場での性教育について労働大臣に質問している。
 これらの議論の背景には、若者の性行動(婚前性交)=「逸脱」という図式が潜在していたとみることもできる。実際、NHK 放送文化研究所が1973年におこなった「日本人の意識」調査でも、婚前性交を「愛しあっていればかまわない」とする回答は19%にとどまり、「結婚式がすむまでするべきではない」という回答が58%あった(NHK放送文化研究所 2015)。
 こうしたなかで1971年に総理府青少年対策本部(当時)は、日本性教育協会に委託して、全国の15歳〜 24歳の男女5000人を対象に「青少年の性に関する意識調査」を実施した。この調査の結果は、『昭和46年版青少年白書』に収録されているが、「フリーセックス」(「性交は自由に行われてよい」)」を肯定する者は男子49%、女子19%程度だが、その理由をたずねると「お互いの愛情の結びつきだから」が6割を占めていたことから、「フリーセックス」の内実は「乱交」ではなく「婚前性交」を意味したことがわかる。
 ところが、この『白書』に関する報道を見ると「誤った知識多い 学校などで早期教育を」(『毎日新聞』1971年10月26日)、「早期の性教育も必要」(『朝日新聞』同日)と、青少年の性行動が早期化・活発化しているような印象をもとに、早期の性教育を求める見出しが並んだ。
 この総理府の調査は画期的なものではあったが、「青少年の性に関する意識調査」という名称からわかるように意識を中心とした調査であった。そのため、青少年の性行動も含め、その変化も時系列的に追跡できる調査として企画されたのが「青少年の性行動全国調査」であり、その第1回調査は朝山新一を委員長として1974年におこなわれた。
 本書には、この第1回(1974年)調査から第8回(2017年)調査までの青少年の性行動の経験率が示されているが、少なくとも1970年代から80年代にかけては、大学生の経験率の上昇は顕著だが、高校生については、いずれの行動の経験率もほぼ横ばいであり、70年代のマスコミが喧伝した「性の早熟化」といった状況とは程遠い。高校生の性行動が活発化の兆しを見せるのは1990年代に入ってからである。
 このようにメディアが伝える若者像と若者の実像の間に乖離がみられることは、少年非行(広田2001、土井2003)や労働(本田ほか 2006)の領域でも指摘されてきた。メディアは、都合のよい「メディア・フレーム」によって若者の多様な現象の一部を切り取り、単純化してその時代の若者像を「構築」しているにすぎない。
 ここでいう「メディア・フレーム」とは、メディアが報道する事実の選択をする際の枠組みであるが、アメリカでは1960年代の若者の異議申し立てがメディアのフレームによって恣意的に歪められて伝えられたことが、当時の運動当事者による研究によって明らかにされていた(Gitlin1993=1993)。日本でも、とりわけ1970年代は、若者に社会の関心が集まり、「モラトリアム人間」(小此木 1978)論など若者言説が氾濫しはじめた時代でもあった(片瀬 2015)。
 今日、若者の性教育に限らず、教育政策にはこうした安易な若者言説ではなく、確かなエビデンス(科学的根拠)が求められている(中澤 2018)。40年にわたって継続的に実施され、知見を蓄積してきた本研究が、今後の性教育の礎となるエビデンスを提供できることができれば、何よりの幸いである。

 
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主要な結果

 主要な性経験としてデート経験・キス経験・性交経験をとりあげ、この43年の間に(ただし、中学生の調査は1987年以降である)学校別・性別にどのような変化が起こったかを示す。
 最後に2017年調査における特徴的な傾向や今後の課題について述べる。

デート経験
 図1にはデート経験率の推移を学校段階、性別ごとに示した。大学生については、1974年の時点から男女ともに7割を超える者がデートを経験しており、男女ともに1990年代にかけて経験率の緩やかな上昇がみられた。その結果、1993年調査では男女ともに8割を超える経験率となった。
 しかし2000年代に入ると経験率は男女ともに低下しはじめ、2005年から2011年にかけては男子で約3ポイント、女子で約5ポイント低下し、さらに2011年から2017年にかけては男子で約5ポイント、女子で約7ポイント低下している。この傾向は今回の2017年調査でも続き、過去最低水準の経験率となった。また2005年以降、男女の経験率が逆転し、2017年調査では男子の経験率が女子の経験率を約3ポイント上回っている。
 高校生は、大学生よりもデート経験率の性差が大きいことが特徴であり、すべての時点において女子のデ ート経験率の方が男子の経験率よりも高い。推移に着目すると、男女いずれにおいても1980年代は経験率が低下していく傾向がみられていたのに対し、かわって1990年代は経験率が上昇していった。これに対して、2000年代に入ってからは、大学生と同様、経験率が低下していく傾向がみられている。
 最も経験率が高かったのは男女ともに2005年時点であるが、今回の2017年調査ではそこから男子は約4ポイント、女子は約3ポイント低下している。また1987年調査から2005年調査にかけて経験率の男女差は縮小してきたが、それ以降は少なくとも男女差の大きな変化はみられない。
 中学生のデート経験率は1987年以降大きなトレンドで言えば上昇傾向が続いており、2017年調査では男女ともに過去最高の水準となっている。女子の経験率は、2005年から2011年にかけていったん低下したものの、2017年にかけては約7ポイント上昇し、男子の経験率を再び上回っている。

キス経験
 図2にはキス経験率の推移を学校段階、性別ごとに示した。大学生については、1974年から1993年にかけて男女ともに経験率の大幅な上昇がみられた。
 1974年時点では男女ともに5割を下回っていたが、1993年時点では男子で約7割、女子で約3分の2がキスを経験しているようになった。またこの間、常に男子の経験率が女子の経験率を上回っていたが、2005年時点では男女ともにほぼ同じ水準となった。男女いずれにおいても2005年のキスの経験率をピークとして、2011年にかけては男子で約8ポイント、女子で約11 ポイントの大幅な低下がみられた。
 2017年調査でもこの低下傾向は続いており、2011年からさらに男子で約7ポイント、女子で約8ポイントの低下が起こっている。これは1987年調査の水準にほぼ相当しており、特に女子の経験率の低下が著しい。
 高校生のキス経験率は、男女ともに1974年から87年までは25%程度で横ばい状態だったが、87年から2005年にかけて急激に上昇し、大学生と同様に2005年をピークとしてそれ以降は低下に転じた。
 2005年には男子でほぼ半数、女子では過半数がキスの経験があったのに対し、それから2011年にかけては男子で約12ポイント、女子でも約12ポイントの低下がみられ、今回の2017年調査では2011年から男子で約4ポイントの経験率の低下が起こっている(女子は横ばい)。また性差に着目すると、大学生とは異なり、1981年以降のすべての時点で女子の経験率が男子の経験率を上回っている。
 中学生のキス経験率は1987年の調査開始時には男子で約6%、女子で約7% だったが、2005年時点までに男女ともに経験率は約3倍となった。また1999年まではキス経験率の性差はごく小さかったが、2005年には女子の経験率が男子を約4ポイント上回るようになった。それ以降は、中学生においても2005年から2017年にかけて男子は約6ポイント、女子は約7ポイント低下している。

性交経験
 図3には性交経験率の推移を学校段階、性別ごとに示した。大学生については、1974年時点において男子で約23%、女子で約11%であった性交経験率が1980年代、1990年代を通して上昇し続けてきた。経験率のピークは男女とも2005年で、男子は約63%、女子は約62%である。またこの間に、男子のほうが常に経験率が高いという性差が縮小しており、2005年には差はほぼなくなっている。
 その後は2011年にかけて男子で約9ポイント、女子で約16ポイントも経験率が低下し、2017年にかけ てはさらに男子で約7ポイント、女子で約9ポイント低下している。
 高校生の経験率については、男女とも1970年代から80年代初頭まではほぼ横ばいであったが、男子は1981年から2005年にかけて、女子は1987年から2005年にかけて大きく上昇してきた。またそれ以降は大学生と同様に経験率の低下がみられるが、性差のあり方は異なっており、2005年以降、女子の経験率のほうが男子よりも高い状態が続いている。2017年時点では男女ともに2割を下回っており、1990年代とほぼ同じ水準まで低下した。
 中学生の性交経験率は1987年の調査開始以来、常に5%を下回っている。ただし絶対的な水準は低いままであるが、今回の2017年調査における経験率は男子で約4%、女子で約5%となっており、長期的には上昇傾向にある。

今後の課題

 前回の2011年調査では、主要な性行動の経験率がそれまでのトレンドとは異なり全体的に大きく低下し、この性行動の不活発化の傾向が大きく世間の注目を集めた。今回の2017年調査でも青少年の性行動の不活発化がさらに進行し、特に女子でその傾向が著しいことが明らかとなった。そして、これによって性行動における性差も拡大していることはきわめて重要な知見である。
 性の心理的側面についても同様の変化が起きている。性的関心をもった経験がある割合が、男子ではおおむね前回調査の値より上昇しているのに対し、女子では逆に低下していた。性に対するイメージの悪化も女子において顕著であることから、性の行動的側面のみならず、心理的側面においても消極化が女子においてさらに進行していると言える。
 「青少年の性行動全国調査」も、第8回目の調査を迎えて、今度は「不活発化」という現象を説明しなければならない位相に至った。いつの時代も若者は「どこか問題化」されるものである(羽渕2008)。おそらくその背景には、性愛をめぐるコミュニケーション(またはディスコミュニケーション)の問題が横たわっており、さらにはそうした問題を引き起こした現代社会の変容が潜んでいることだろう。そうした現代社会の変容も含めて、若者の性行動の変化を実証的に説明していくことこそ、本書に課せられた課題である。上に述べた議論はひとつの試論であり、十分な経験的検証に支えられたものではない。ただ本書に収められた各章の分析をもとに、現代青年の性をとりまく状況を、現代社会の変容と合わせ鏡に考える手掛かりにしていただけると幸いである。



さらに詳しい分析・解説は下記の書籍をごらんください。

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●第1章 変化する性行動の発達プロセスと青少年層の分極化
●第2章 青少年の性規範・性意識からみる分極化現象
●第3章 家庭環境や親子のかかわりの違いは青少年の性行動に影響を与えるか
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